ラクタノ AI編集部
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経営者の皆様、自社のビジネスにおける「AI活用」や「海外展開」、特に成長著しいASEAN(東南アジア諸国連合)市場への進出に関心はお持ちでしょうか?
2025年1月15日、ベトナムで開催された「日ASEANデジタル大臣会合」において、日本政府とASEAN諸国の間で非常に重要な合意がなされました。それが「信頼できるAI」の推進に関する共同声明の採択です。
一見すると、外交や大企業向けの話に聞こえるかもしれません。しかし、この合意は、これからAIを活用して事業を拡大したい、あるいは海外へ販路を広げたいと考えている中小企業にとって、「手続きの簡素化」や「強力な支援制度」に直結する大きなチャンスを意味しています。
本記事では、このニュースが中小企業の経営にどのようなメリットをもたらすのか、そして今、経営者が具体的にどのようなアクションを起こすべきなのかを、専門用語を噛み砕きながらわかりやすく解説します。
概要
今回、総務省、デジタル庁、経済産業省が連携して参加した「日ASEANデジタル大臣会合」において、日本とASEAN諸国は、AI(人工知能)の安全な利用と開発を共に進めていくための共同声明を採択しました。
また、2026年度までの具体的な協力プランである「日ASEANデジタルワークプラン2026」も承認されました。
簡単に言うと、「日本が主導して作ったAIのルールや安全基準を、ASEAN諸国でも共通のスタンダードとして使いましょう」という約束が交わされたのです。これにより、日本企業がASEANでビジネスを行う際、国ごとに異なる複雑なAI規制に悩まされることなく、スムーズに事業展開できる環境が整いつつあります。

背景
なぜ今、日本政府はASEANとのAI協力をこれほど強力に推し進めているのでしょうか。そこには大きく分けて2つの背景があります。
1. 生成AIの普及と国際的なルール作りの必要性
ChatGPTに代表される生成AIは、業務効率化やイノベーションの起爆剤として期待される一方で、偽情報の拡散や著作権侵害、サイバー攻撃への悪用といったリスクも懸念されています。こうした課題に対し、2023年のG7広島サミットで日本が主導したのが「広島AIプロセス」です。これは、AI開発者が守るべき国際的な指針や行動規範を定めたもので、世界のAIガバナンス(管理・統治)の基礎となっています。
2. バラバラな規制による「見えない参入障壁」
ASEANは巨大な成長市場ですが、国によって文化や発展段階が異なり、AIに対する考え方や法規制もバラバラになりがちです。もし各国が独自の厳しい規制を作ってしまうと、日本の中小企業が進出する際、国ごとに仕様を変更したり、膨大な法的調査を行ったりする必要が出てきます。これではコストがかかりすぎて、事実上の「参入障壁」になってしまいます。
そこで日本政府は、欧州のような「厳格な法律による規制」ではなく、企業の自主的な取り組みを尊重する「ソフトロー(法的拘束力のない柔軟な規範)」というアプローチを提案。これがASEAN諸国の賛同を得て、今回の共同声明につながりました。
ポイント解説
今回の方針決定には、中小企業経営者が押さえておくべき3つの重要なポイントがあります。
ポイント1:日本基準がASEANの「パスポート」になる
最も大きなメリットは、規制の「相互運用性(そうごうんようせい)」が確保されることです。相互運用性とは、異なる仕組み同士でも問題なく連携できることを指します。
具体的には、日本国内の「AI事業者ガイドライン」に準拠してAIサービスを開発・運用していれば、それがそのままASEAN各国でも「安全で信頼できるAI」として認められやすくなる仕組み作りが進んでいます。つまり、「日本でしっかりやっていれば、ASEANでも追加対応なしでビジネスができる」という状態を目指しているのです。これにより、海外展開時のコンプライアンス(法令遵守)コストを大幅に削減できます。
ポイント2:企業の自主性を尊重する「ソフトロー」重視
今回の合意では、ガチガチの法律で縛るのではなく、ガイドラインベースの柔軟な対応(ソフトロー)が基本となっています。これは変化の激しいAI技術において、イノベーションを阻害しないための配慮です。
中小企業にとっては、いきなり罰則付きの法律に対応するのではなく、まずはガイドラインに沿って自社の体制を整えるというステップが踏めるため、取り組みやすい環境と言えます。
ポイント3:2026年に向けた具体的な技術協力
単なるルールの統一だけでなく、技術的なインフラ整備もセットで進められます。2026年度までに、日本とASEANの間で5Gネットワークやデータセンターの連携、さらにはAIの安全性をテストする手法の共通化が行われる計画です。
特に、日本の「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」という専門機関が、ASEAN各国の評価機関と連携を強化します。これにより、日本企業の技術力が国際的なお墨付きを得やすくなる土壌が育まれています。
共同声明で示された「信頼できるAI」の具体的な基準や、国内での法的な対応については、過去記事「AI新法」施行で中小企業はどう変わる?今すぐ始めるべき「記録」と「ルール作り」で詳しく解説しています。
企業への影響
では、この政策を受けて、中小企業は具体的に何をすべきでしょうか? 政府は予算を確保して支援体制を整えていますので、これを活用しない手はありません。
1. 「AI事業者ガイドライン」への準拠と確認
まず最初に行うべきは、2024年4月に経済産業省と総務省が公開した「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」の確認です。
自社がAIを使って何らかのサービスを提供したり、社内業務でAIを活用したりする場合、このガイドラインに沿ったリスク管理ができているかをチェックしてください。これが国内での信頼獲得はもちろん、将来的なASEAN展開における「パスポート」の役割を果たします。
2. 最大1億円規模!補助金・支援制度の活用
政府は、AIを活用して海外(特にグローバルサウスやASEAN)へ展開する企業を強力にバックアップしています。以下の制度は要チェックです。
- 経済産業省・JETRO「グローバルサウスDX促進事業」
* 内容: ASEAN等の企業と連携し、現地の課題解決を行う実証実験を支援。
* 規模: AI活用プロジェクトの場合、最大5,000万円〜1億円程度の補助が出る可能性があります。
* 活用例: 現地の物流パートナーと組み、AIで配送ルートを最適化するシステムの実証など。
- JICA「中小企業・SDGsビジネス支援事業」
* 内容: 開発途上国の課題解決に資するビジネスの調査・実証費を支援。
* 規模: こちらも最大1億円規模の枠があります。
* メリット: JICAの信頼性を背景に、現地の政府機関とつながりを持てるのが強みです。
- JETRO「J-Bridge」
* 海外企業とのマッチングや契約サポートなど、実務面での伴走支援が受けられます。
3. 技術的な「信頼性」の確保
開発・運用面では、以下の2点を意識してください。
- バイアス(偏見)への配慮: AIの学習データに偏りがないか確認しましょう。政府の「GENIAC」プロジェクトなどで整備されている、日本語やアジア圏の文化を正しく反映したデータセットの活用も有効です。
- 安全性評価の実施: AIが不適切な回答をしないかテストする「レッドチーミング(模擬攻撃による脆弱性診断)」などの手法を取り入れることが、国際的な信頼に繋がります。
ASEAN展開を見据えた国内での支援体制や、2026年に向けた政府の基本計画については、過去記事2026年AI本格普及へ。中小企業経営者が知っておくべき「支援」と「責任」を併せてご参照ください。
今後の見通し
今回の合意はゴールではなく、スタート地点です。政府は2026年度を見据えたロードマップを描いています。
- 2025年: 国内では、大規模なAI開発者を対象とした法制度の議論が進み、国会への法案提出が検討されています。まずはガイドラインへの対応を完了させましょう。
- 2026年度: 「日ASEANデジタルワークプラン2026」に基づき、AIガバナンスの相互運用性が完成する予定です。この時期には、日本とASEANでシームレスにAIビジネスができる環境が整っているでしょう。
まとめ
日本政府が進める「信頼できるAI」政策は、中小企業にとって「規制の強化」ではなく、「海外展開のハードルを下げるインフラ整備」です。
ASEAN市場は日本の数倍のスピードでデジタル化が進んでいます。今のうちに国内のガイドラインに準拠し、政府の手厚い補助金を活用して「信頼できるAI企業」としての実績を作っておくこと。それが、2026年以降の大きな飛躍に向けた、最も確実な投資となるはずです。
まだガイドラインを読んでいない、という方は、ぜひ今日から確認を始めてみてください。
