
ラクタノ AI編集部
AIを活用して毎日最新情報をお届けしています

何が起きているか
株式会社ミロク情報サービスが2026年9月17日に発表した「会計事務所白書2026」によると、バックオフィス業務における生成AIの利用状況が大きく変化しています。この調査(2026年7月実施、818名対象)では、企業・事業主のAI利用率が2024年の55%から2026年には84%へと達し、実務への定着が進んでいることが明らかになりました。
利用率が拡大する一方で、現場の課題は「使い方が分からない」という初期の悩みから、「機密情報の漏洩」という運用リスクへと明確にシフトしています。同調査によると、利用が急速に進んでいるにもかかわらず、社内ルールが未整備である企業・事業主は53%に上ります。業種を問わず、バックオフィスでのAI活用は実験的な試用段階を終え、経営陣によるガバナンスと適切なルール作りが求められるフェーズへと移行しています。
経営にとって何が変わるか
資金繰り表の更新、融資の申込書類作成、補助金の申請、予算と実績の比較など、経営者が日常的に確認する管理部門の仕事は、AIの活用によって手順が変化します。
従来、予算と実績の差異を分析する際は、担当者が会計ソフトから出力したデータをスプレッドシートで集計し、目視で要因を探ってから報告書にまとめていました。現在では、データ入力と指示(プロンプト)を与えることで、AIが差異要因の言語化や要約を補助する使い方が広がっています。たとえば、製造業における原材料仕入の変動や、小売業・サービス業における仕入代金・外注費の推移など、業種によって異なる商流であっても「確定債務の支払期日と金額の比較」という共通の概念に置き換えることで、AIによる分析が可能になります。
また、補助金申請においても変化が見られます。数百ページに及ぶ公募要領の読み込みや複数年度の決算書の多角的分析は、これまで多大な時間を要していました。現在では、長文処理と論理分析に長けた「Claude for Work」などのツールを活用することで、自社の要件に合致しているかの確認作業が効率化されます。また、財務資料の分析や要約に特化して「NotebookLM」を使い分けるなど、用途に応じた高度な活用も始まっています。
しかし、注意すべき落とし穴もあります。AIは大規模言語モデルの特性上、厳密な数値計算を苦手とします。AIが算出した資金繰り予測や補助率をそのまま信じてしまうと、経営判断の誤りや申請書類の虚偽記載につながる恐れがあります。また、経営層がトップダウンでAI導入を指示した結果、現場で「AIの出力した数値を一行ずつ原資料と照合する作業」が発生し、かえって業務負担が増したと反発を招くケースも起きています。実際、2026年のサモテク調査によれば、準備不足が原因で中小企業のAI導入プロジェクトの約7割が想定した費用対効果(ROI)を達成できていません。
明日からの一手(3 つ)
安全にAIを導入・活用するために、経営陣が明日から着手できる具体的なアクションを3つ紹介します。
1. 無料版AIの業務利用実態のヒアリングと利用禁止の通達
現場の担当者が分析を急ぐあまり、入力データが学習に利用されてしまう無料版のAIや、私用アカウントに財務データを貼り付けてしまう「シャドーAI」を防ぐための第一歩です。
- 使うツール: 社内メール、ビジネスチャットツール
- 操作手順: 全従業員に向けて「無料版AIへの社内データ・顧客情報の入力禁止」を通達し、現在の利用実態(どの業務で、どのツールを使っているか)をヒアリングします。
- 所要時間・費用感: 約1時間 / 無料
2. 安全な法人向けAIプランの選定・トライアル契約
機密データを扱うためには、入力データが学習に利用されない(No Training)ことが規約で保証されている法人向け環境の選定が不可欠です。
- 使うツール: ChatGPT Team(OpenAI)、Microsoft 365 Copilot(Microsoft)、または Claude for Work(Anthropic)
- プロンプト例(予算実績比較の要約):
「役割:あなたは優秀な財務アシスタントです。
前提条件:以下の匿名化された売上・支出データに基づき、前月比の増減要因を3つの箇条書きで要約してください。実数は出さず、パーセンテージのみで記述してください。」
- 所要時間・費用感: 約2時間(選定と少人数でのアカウント開設) / 月額数千円〜(1ユーザーあたり)
3. 顧問税理士とのAI利用範囲に関する協議と覚書締結に向けた打診
自社だけでなく、外部の専門家と連携して業務を進める際のルールを明確にします。
- 使うツール: 電話、Web会議ツール
- 操作手順: 顧問税理士に対し、双方が業務の中でどの範囲までAIを用いるか、データの受け渡しはどうするかを協議するためのミーティングを打診します。
- 所要時間・費用感: 約1時間 / 無料
ルールなき利用や社員の「隠れAI利用」を防ぎ、組織全体で健全に業務効率化を定着させるための仕組みづくりについては、過去記事社員の「隠れAI利用」を防ぐには?AI時代の新しい人事評価とインセンティブ設計で詳しく解説しています。
注意点と専門家に確認すること
バックオフィス業務へのAI導入には、情報セキュリティや法令遵守の観点から慎重な対応が求められます。経済産業省・総務省が公表している「AI事業者ガイドライン(第1.2版、2026年3月31日改訂)」や関連法令を踏まえた社内統制が不可欠です。
情報処理推進機構(IPA)が2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織向け脅威の3位に選出されました。入力したデータから社内機密や取引先情報が漏洩するリスクを防ぐため、freeeやマネーフォワードなどの学習遮断環境を利用したり、取引先名を「A社」、従業員名を「従業員X」とするなど、徹底したマスキング(匿名化処理)のルールを定める必要があります。
また、AIは事実とは異なる情報をもっともらしく出力するハルシネーション(誤出力)を起こす限界があります。そのため、出力された財務数値や申請書類の内容は、必ず人間が原資料と照合する「Human-in-the-Loop(人間の介在)」のプロセスを業務フローに組み込んでください。
法令や専門家との連携においては、以下の点に留意し、必ず各専門家に確認を取るようにしてください。
- 個人情報保護と秘密保持契約(NDA): 従業員や取引先の情報をAIに入力する行為が、個人情報の第三者提供やNDA違反に抵触しないか、顧問弁護士に確認してください。
- 税務業務の取り扱い: 2026年6月にTKC全国会が「AI活用基本方針」を定めたように、会計業界でもルール化が進んでいます。AIを利用した処理の範囲や守秘義務について、顧問税理士と協議してください。
- 労務管理や補助金申請の最終責任: 補助金申請の要件確認や就業規則のチェックなどをAIで補助した場合でも、最終的な法的責任は企業が負います。提出前には必ず社会保険労務士や中小企業診断士などの有資格者によるレビューを受けてください。
なお、AI導入の費用負担については、中小企業庁が所管する「デジタル化・AI導入補助金2026」(最大補助額450万円、補助率1/2〜2/3)などの公的支援制度が活用できる場合があります。対象となるツールや要件については、公的機関の窓口や専門家に相談して進めましょう。
中小企業が直面しやすい現場のトラブル事例や契約・実務上のリスク対策については、過去記事経産省がAIトラブルの「現場の声」を募集中!中小企業が今すぐ確認すべき実務リスクと対応策で詳しく解説しています。
まとめ:経営者のチェックリスト
安全かつ効果的にAIを経営に活かすために、以下の項目を確認してください。
- □ 社内の無料版AI利用実態を把握し、機密データの入力禁止を通達したか
- □ 入力データが学習に利用されない法人向けAIプラン(ChatGPT Teamなど)を選定しているか
- □ 財務データ等を入力する際、固有名詞を伏せるマスキング(匿名化)ルールを定めているか
- □ AIの出力結果を必ず人間が確認する手順(Human-in-the-Loop)を業務フローに設けているか
- □ 顧問税理士や社労士、弁護士と、AIの利用範囲やルールについて協議しているか
